くまこ道

滝町昌寛の日常 くまこへの道

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「へびの子」

  「へびの子」


ごんべえは独り者である。
そして、ごんべえは働き者である。

ごんべえは結婚して間もなく妻を流行り病で亡くした。
それ以降ごんべえは一人でせっせと田畑の仕事や牛の世話、
山の手入れに励んでおった。
その日も日輪の暮れそうになるまで畑の世話をして、
汗まみれ泥まみれになり、誰も待つ者のない小さな家に帰りついた。

ふと、敷きっぱなしの布団の中でゴソゴソと何やらうごめいておるものがあります。
「はて?」と思い、持っていた鍬を肩まで振り上げたまま、
恐る恐るそちらの方へと近づいていきました。
すると、掛布団がむっくりとサーカスのテントの様に1メートルほど持ち上がったので、
ごんべえはどっきりして、2,3歩後ずさりいたしました。
その、テントの様に持ち上がった布団は、右に左にゆらりゆらりと揺れております。
ごんべえは足をがたがたと震えさせながら、何度も何度もつばを飲み込んでは
ようやくの事で叫びました。

「おっおっおっ、おい! こっこっこっ、こら!
 お、おい。
 いったい、な、何者だべぇ! えっ、えっ、え。」

がたがた震えながら肩まで上げている鍬を一段と高く振り上げましたところ、
その、ゆらりゆらりとうごめいていた布団がより大きく、高くなったかと思いますと。
ぺしゃり!と、ぺったんこになりました。
そして布団の中から、大きな、それは大きな、真っ白のへびが一匹。
赤い目でごんべえの方を見つめながら、赤い舌をペロリペロリと出したり入れたりして、
ずずっずずっずずずい。 と出て参りました。
これには、ごんべえおったまげまして、ぺったりと尻もちをついて動けなくなってしましました。
その大きな白へびは、ごんべえの顔をしっかりと見つめたまま、ずるり、ずるりと
玄関から出て行ったのでございます。
ごんべえは尻もちをついたまま、ガタガタ、ガタガタ、と震えておりましたが、
ようやく何とか四つんばいになって布団のところまで行きました。
そして布団をめくってみますと、これもまた大きな、真っ白の卵が2つ、
布団の中に鎮座しておりました。

「うむむー。」


ごんべえは心優しい男でございます。
それから毎日、その大きな卵を、夜は抱いて寝。昼は湯たんぽで暖めてやり。
かいがいしく世話をやいておりました。
卵を抱いてやってからちょうど49日目。
片方の卵が、パリン。とひび割れしたかと思うと、中から白い男の子が出て参りました。

「おー、男の子が出たぞ。」

てっきり、へびの子が出るのかと思っておりましたが、ごんべえも毎日毎日、卵の世話をしておりましたものですから
だいぶ卵に愛着を持っておりました。
ですので、人の子が出てきた事にはそんなに驚きはありませんでした。むしろ驚きというよりはどちらかといえば、
ほっ、とした心持であったようです。

卵から出た男の子を両手で抱えて持ち上げようとしておりますと、
もう一方の卵も、パリン。と音を立ててひび割れまして、今度は中から白い女の子が出て参りました。

「おお!女の子じゃ。」

ごんべえは何だかうれしくなって参りました。
そして二人の赤子を両手に抱えひざの上に乗せては、満足そうに顔を眺めておりました。

「どちらもめんこい赤子じゃのう。 うんうん。 
 てっきりへびの子が出てくるんじゃないかと思っとたが人の子で良かった。
 よしよし。 めんこい、めんこい。」

この二人の赤子は全く泣きもせずに大人しくごんべえに抱きかかえられておりました。
と、その時、男の子が小さな口を開けたかと思うと、ペロリ。と舌を出しました。

「おっ。」

そしてすぐまた引っ込めましたが、その舌はへびの様に二つに割れた長い長い舌でございました。

「おーー。」

と思っていますと、女の子もまた、ペロリ。と舌を出しました。
やはり、へびの舌でございます。

「おーーー。」

ごんべえは、何がわかったのか、何もわからないのか、
何となく、ただ、うなずいておりました。


その赤子たちはほとんど手のかからない子供でした。
泣くわけでもありません。
トイレは夕方に一度きりでございますし、
食べ物もいつもごんべえが食べているようなものを少し食べるくらいです。
そんな二人もすくすくと成長して、他の子供と見比べても全くもって人の子そのものでございました。
赤子の頃にはへびの様に二つに割れていた舌は、今ではもうすっかりひっつきまして、
普通の人間の舌のようになっております。
そうですね。ただちょっと、人間の舌よりは長いですかね。
他にこれといっての違いと言えば、
そう、 色が白い事でしょうか。
肌の色が白いという事を除いては全くもって他の子供たちと同じでございます。

ごんべえは二人の子の成長が何よりの楽しみでした。
この二人の子を授かってからは、より一層、野良仕事に精を出しました。
そして、この二人の子供たちも、ごんべえの言う事を良く聞く、
本当に素直な、かわいい子供に育ちました。
一日の作業が終わり、子らと三人で食卓を囲み、笑顔あふれるひと時を過ごしてから、
子らを寝かしつけた後、熱い麦茶をすすりながら寝入った子供たちの姿を見るのが、
ごんべえの一日の楽しみであります。

そんな時、ふと、思うのです。

「そう言えば、この子らはへびの子じゃったんだよなー。
 今でこそ人間の子と全く変わりは無いもんの、この子らは卵から生まれ出たんだべな。
 ひょっとしたら、この子らには何か特別な能力でも備わっとるんかもしらんな。
 いつか、その特別な力を発揮する時が来るんかもしれん。
 この子らは、何らかの意味、使命を持って生まれてきたんかもしれん。
 いつか、この子らの力が大いに役立つ時が来るんかもしれん。
 うんうん。 そんな時が来るんかもしれんでよ。」


月日は流れます。
ごんべえ一家は相も変わらず仲の良い家族でございます。
子供たちはごんべえの手伝いを良くし、娘は立派に家を切り盛りしています。
息子の畑作業、牛の世話も立派なもので、ごんべえはだいぶ楽が出来る様になりました。
ごんべえは日々のしあわせを感じて暮らしておりました。

春が来て、夏を迎え、秋に実り、冬を越え、
子供たちは立派な大人へと成人していき、
ごんべえの顔には、しわの数が増え、腰が曲がり、歯が抜けて、
足も弱くなって参りました。

もう、すっかり野良仕事は息子に任せられます。
家も娘のおかげで毎日きれいで、おいしいご飯が食べれる様になりました。
秋の夕暮れ、ごんべえは縁側に座ってお茶を飲みながら、お日様を眺めておりました。

「二人は本当に立派に育ってくれた。本当に良い子たちじゃ。
 もう、わしがしてやれる事は最後にひとつ。
 ひとつだけじゃ。
 縁談じゃ。」


こんな器量良しの二人です。
縁談もすぐにまとまりました。

息子には隣の村から気立ての良い、丈夫な嫁が来てくれる事になりました。
娘は一山越えた所の村の庄屋の家に嫁ぐ事になりました。
そこの若旦那は評判の良い人で、娘の事を心から想ってくれておったので、
ごんべえはもう、何の心配もありませんでした。

二人の縁談が決まった夜。
ごんべえは一人、熱い麦茶を飲みながら人生を振り返っておりました。

「ああ、本当によかった。

 あの子らを授かった時、わしは正直迷った。へびの子じゃからどうしたもんかと迷った。
 でも、あの白い卵を見ていると何だかかわいく思えたもんだから暖めたんじゃの。
 あの時、わしは一生懸命じゃった。卵がかえってくれと願っとた。
 卵から何が出てくるかはわからんかったけど、とにかく、一生懸命じゃった。

 そして、あの子らが生まれてくれた。本当にめんこい子らじゃった。
 子供なんぞ育てた事がなかったから戸惑ったが、本当に手のかからん子らじゃったなぁ。
 へびの子じゃ。だから何か大きな意味を、使命を、力を持って生まれてきたんじゃと思とった事もあったが、
 なーんも無かった。

 別段、何もなかったの。
 いや、でもそれで良かったんじゃ。
 いやいや、何もなかったどころではない。
 あの子らは心底、わしの事を大切にしてくれとった。
 あの子らがわしの所に授かった事が何よりの大きな事じゃ。

 あの子らのおかげでわしの人生は豊かなものになった。
 わしの人生に大きな意味が生まれたんじゃ。
 あの子らのおかげでわしは日々しあわせに過ごせた。
 これ以上の事は無い。
 
 わしはもう充分だ。
 わしの人生は充分すぎる。
 
 わしはしあわせだ。
 こんなにしあわせな事はない。
 
 わしはやった。
 わしはやったぞ!
 
 わしは、わしの人生をしっかりと、
 しっかりとこの手の中に、にぎりつかんだぞ!」


「ありがとう。ありがとう。白へびさん。」


ごんべえは泣きました。
涙があふれて止まりませんでした。
そして、静かに、倒れました。
飲みかけの湯飲みがテーブルの上に転げました。
その音を聞きつけて、隣の部屋に居た子供たちが駆け寄って参ります。

「おっとぉ!」
「おっとぉ!」

二人してごんべえを抱きかかえ呼びかけます。

「おっとぉ!」
「おっとぉ!」

ごんべえは泣いております。
涙が止まりません。
二人の子供らも泣いております。

ごんべえは子供らにやさしい声で言いました。

「ありがとう。ありがとう。」

子供らは泣いて呼びかけます。

「おっとぉ!おっとぉ!」

「おっとぅ。」

そして、子供らは口からペロリと舌を出しました。
その舌は、真っ赤で、長い長い、先の二つに割れた、へびの舌でした。
そのへびの舌で、ごんべえの顔をペロリペロリを舐めました。

ごんべえは何だか少しくすぐったくなりました。
口元には笑みが浮かんで参りました。
へびの舌は、やさしくやさしく、ごんべえの顔をなでる様に舐めました。
ごんべえはやさしさに包まれました。
子供らは、心を込めて、感謝を込めて、ごんべえの顔を舐め続けました。
やさしくやさしく、舐め続けました。


二人の子らに抱かれて、
ごんべえは人生を終えました。


その顔は、輝いておりました。


  
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  1. 2010/05/03(月) 22:59:54|
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